ロバート・ジョンソン #1

さてRobert Johnsonです。

 デルタブルーズの面々の中では最も有名で話題になりやすいRobert Johnson。

 クロスロードで悪魔に魂を売った伝説をはじめとして、27歳で夭折、不倫相手の亭主に毒殺された説などネタが尽きない人です。クラプトン、キース・リチャーズ、ボブ・ディラン、ロバート・プラント、ジョニー・ウィンターとロックのレジェンド達が”かわるがわる”に賞賛することでジョンソンの評価は決定的になるのですが、一方で、「どこがいいのか、どこがすごいのか、さっぱりわからない」という、特に若い世代の音楽ファンの声も聞きます。若い世代の子たちが戦前のデルタブルーズを聴いてもついていけないのは、当然と言えば当然ですが、ロックのレジェンドをある程度理解しているであろう若いロックファン、ロックマニアまでが、ロバジョンを全くできない、というのはあまりに悲しい気がします。

 そこで、ここでは、クラプトンをはじめとしたロックレジェンド達が、ロバート・ジョンソンに魅せられたのは何故なのかを考えてみたいと思います。

ブギーシャッフル

まず、一番わかりやすいところから見ていきます。ブルーズ研究家のEdward Komaraが書いています。

ピアノの代わりにギターのようなプレクトラム楽器でドライヴ感のあるベース・ビートを実行したことは、ジョンソンの最も影響力のある功績である…。これは彼の音楽の中でデルタ・ブルーズのやり方を最も変えた側面であり、ブルーズ・ギターの伝統の中で最も保持されているものである。

Robert Johnson – Wikipedia

Komaraが言っているのは、”boogie bass pattern” とか “boogie shuffle”と呼ばれるギターのスタイルで、これはブルーズ系のギターではおなじみの「あの」パターンのことです。単純化して譜面にすると

 ジョンソンは低音弦でこれをやり続けながら、歌の合間にオブリガートをはさんでくるのが一つのお決まりのスタイルでした。研究者達はロバート・ジョンソンがこのブギーベースのルーツだと言っています。”ブギーベース”という呼び名は知らなくても、ブルーズロック系のギタリストならこの弾き方を絶対知っているでしょう。とりようによっては、ロックのパワーコードの元祖かもしれません。

 チャック・ベリーがこのパターンをあまりはねない8ビートでやって有名になりました。チャック・ベリーまでいくとロックン・ロールの定番パターンなので誰でも聴いたことがあると思います。結局このブルーズに始まりロックンロールで世界中に広まった一連のパワフルなギター奏法のルーツは、恐らく間違いなくロバートジョンソンなんです。

 もともとこの奏法、ブギウギピアノの左手をギターで真似るという発想だったらしいのですが、ラグタイムやブギウギピアノのスタイルをも取り込もうというロバート・ジョンソンの貪欲さが垣間見えたりします。そもそも彼が人前でギターを弾くときには、ベタなデルタスタイルブルーズばかりをやっていたわけではなく、ラグタイムやジャズなど当時ポピュラーだったスタイルに幅広く手を出していたらしいのです。

 ロバート・ジョンソンはデルタブルーズで最も知名度が高いのですが、他のデルタの面々と決定的な相違点があります。それはジョンソンのスタイルが一人で弾き語っているにもかかわらずバンドが後ろにいるような強いグループ感を持っていることです。

 これはもちろん曲によるんです。例えば有名なCrossroad Bluesはデルタ的に屈折したブルーズです。ふわふわと漂う悪魔的な不安が極めてデルタ的です。対してSweet Home Chicagoはデルタブルーズのイメージを飛び越えてシティブルーズの、ある意味明るいフレイバーを隠し持っています(要するに当時のシティブルーズのフレイバーを取り入れていたわけで、デルタ=カントリーブルーズの枠内にとどまらなかったのです)。歌にからんで入ってくるギターのオブリはいかにもデルタ的ですが、底でうなっているグルーブはデルタ的ではありません。極論すればデルタブルーズのど真ん中にいたにもかかわらず、ロバート・ジョンソンのギターはデルタの外や未来を強く感じさせるのです。

 これだけでもブルーズの歴史に名を残せるのですが、ロバートジョンソンの真価はひとつやふたつのギターテクニックにつきるものではありません。

続く

ロバート・ジョンソンと他のアーティストの相関関係をルーツ・グラフで見ることができます。拡大したり他のアーティストを追加したりして遊べますので是非一度触ってみてください

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