1970年のビルボード100で1位になった曲のリストを眺めながら、その年の世界の出来事を振り返ります。
ソ連の経済停滞などを背景に、冷戦下の米ソ対立を緩和に向ける動きが少しづつ出始めますが、この年の段階ではまだ本格的な動きには至りません。
米上院で大気汚染防止法案(マスキー法)が可決され、日本では東京で日本初の光化学スモッグ被害発生が発生しました。さらに日本国内では交通事故死者が増加して、事故死者がピークを記録します。「交通戦争」という言葉が使われていました。
日本の高度成長は成熟期を迎え、庶民の暮らしが豊かになった半面、交通戦争や環境問題など成長の負の側面が目立つのは前年から引き続いています。。
学生運動が過激化・暴力化して、赤軍派のハイジャックや左翼党派内での内ゲバなどが報じられました。一般市民からの学生運動への支持は次第に遠のいていきます。
三島由紀夫の自決という衝撃的な事件もこの年です。改革の時代の只中にあって彼の考える「改革」は当時の前衛的な若者が捉える「改革」とは全く異質なものでした。
前年1969年の三島由紀夫vs.東大全共闘の討論では、三島自身が「討論を楽しんだ」と言いながらも明らかな焦燥感に駆られていたことがうかがえます。彼による「日本人の伝統と深層意識に根差した≪革命≫」は全共闘の学生達には全く理解されていませんでした。
1970年の音楽シーン
音楽シーンではまずビートルズの解散があります。ポール・マッカートニーがビートルズ脱退を宣言することで事実上ビートルズ解散ということになりました。
ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、アルバート・アイラーが相次いで亡くなりました。原因は未だにはっきりしませんが、ヘンドリックスは睡眠薬、ジョプリンはアルコールとドラッグがらみであったとされています。
この年のビルボードアルバムチャートを見ると
- Simon & Garfunkel/Bridge Over Troubled Water
- Led Zeppelin/Led Zeppelin II
- Chicago/Chicago II
- The Beatles/Abbey Road
- Santana/Santana
- Rare Earth/Get Ready
- Soundtrack/Easy Rider
- Soundtrack/Butch Cassidy & The Sundance Kid(明日に向かって撃て)
- Joe Cocker/Joe Cocker!
- Three Dog Night/Captured Live at the Forum
Led Zeppelin、Chicago、Santana、Joe Cocker、、、というように、新しいスタイルのロックがすっかり定着しているのがわかります。Three Dog Nightはポップユニットですが、サウンドはポップというよりロック的でした。
この頃、ウッドストック以降のロックをひとくくりにして「ニューロック」という呼び方もありました。映画Easy Riderは「ニューシネマ」と呼ばれましたが、これはまさに「ニューロック」に対応するものです。
この流れを汲んで日本でも、フラワートラベリンバンド、ブルース・クリエイションといった「和製ニューロック系」のバンドが出てきましたし、「日本語のロック」にこだわった”はっぴいえんど”のデビューもこの年でした。
1970年のビルボードHOT100による1位のシングル一覧
年間チャートの1位はサイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」
曲 | アーティスト | 日付 |
雨にぬれても Raindrops Keep Fallin’ on My Head | B・J・トーマス | 1/3 1/10 1/17 1/24 |
帰ってほしいの I Want You Back | ジャクソン5 | 1/31 |
ヴィーナス Venus | ショッキング・ブルー | 2/7 |
サンキュー / エヴリバディ・イズ・ア・スター Thank You (Falettinme Be Mice Elf Agin) / Everybody Is a Star ※2曲A面でリリースされた | スライ&ザ・ファミリー・ストーン | 2/14 2/21 |
明日に架ける橋 Bridge over Troubled Water | サイモン&ガーファンクル | 2/28 3/7 3/14 3/21 3/28 4/4 |
レット・イット・ビー Let It Be | ビートルズ | 4/11 4/18 |
ABC ABC | ジャクソン5 | 4/25 5/2 |
アメリカン・ウーマン American Woman | ゲス・フー | 5/9 5/16 5/23 |
みんなビューティフル Everything Is Beautiful | レイ・スティーブンス | 5/30 6/6 |
ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード The Long And Winding Road | ビートルズ | 6/13 6/20 |
小さな経験 The Love You Save | ジャクソン5 | 6/27 7/4 |
ママ・トールド・ミー Mama Told Me Not to Come | スリー・ドッグ・ナイト | 7/11 7/18 |
遙かなる影 (They Long to Be) Close to You | カーペンターズ | 7/25 8/1 8/8 8/15 |
二人の架け橋 Make It With You | ブレッド | 8/22 |
黒い戦争 War | エドウィン・スター | 8/29 9/5 9/12 |
エイント・ノー・マウンテン・ハイ・イナフ Ain’t No Mountain High Enough | ダイアナ・ロス | 9/19 9/26 10/3 |
クラックリン・ロージー Cracklin’ Rosie | ニール・ダイアモンド | 10/10 |
アイル・ビー・ゼア I’ll Be There | ジャクソン5 | 10/17 10/24 10/31 11/7 11/14 |
悲しき初恋 I Think I Love You | パートリッジ・ファミリー | 11/21 11/28 12/5 |
涙のクラウン The Tears of a Clown | スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ | 12/12 12/19 |
マイ・スウィート・ロード My Sweet Lord | ジョージ・ハリスン | 12/26 |
1970年の邦楽
70年のオリコン年間チャートを見てみます。
まず目立つのは藤圭子です。
3位 藤圭子:「圭子の夢は夜ひらく」
4位 藤圭子:「女のブルース」
18位 藤圭子:「命預けます」
27位 藤圭子:「新宿の女」
ベスト100に4曲も送り込んでいてセンセーショナルな登場を果たしています。約30年後、娘の宇多田ヒカルの登場もセンセーショナルでしたが、70年の藤圭子も相当な勢いでした。
オリコンチャートには11曲の洋楽が上がっています。
9位 ショッキング・ブルー:「ヴィーナス」
20位 ジェリー・ウォレス:「男の世界」
25位 ザ・オリジナル・キャスト(英語版):「ミスター・マンデイ」
28位 ジミー・オズモンド:「ちっちゃな恋人」
29位 1910フルーツガム・カンパニー:「トレイン」
32位 ビートルズ:「レット・イット・ビー」
33位 サイモン&ガーファンクル:「コンドルは飛んでいく」
35位 ハーブ・アルパート&ティファナブラス:「マルタ島の砂」
41位 クリフ・リチャード:「しあわせの朝」
42位 サイモン&ガーファンクル:「明日に架ける橋」
49位 ビートルズ:「カム・トゥゲザー」
ヴィーナスはこの後多くの邦楽アーティストにカバーされていますので、若い世代でも知っている人は多いでしょう。
1970年の出来事
世界
- 1月15日 – ビアフラ共和国が降伏し、ビアフラ内線が終結。
- 3月1日 – アメリカ軍、嘉手納基地を新たな輸送戦略基地に決定。
- 3月5日 – 核拡散防止条約が発効。
- 3月18日 – カンボジアでクーデター、シアヌークが解任、ロンノル将軍が実権掌握。
- 3月19日 – ヴィリー・ブラント首相(西独)とヴィリー・シュトフ首相(東独)がエアフルトで初の東西ドイツ首脳会談。
- 4月5日 – 周恩来が北朝鮮を訪問。
- 4月10日 – ビートルズ事実上解散。
- 4月11日 – アポロ13号打ち上げ。2日後の4月13日に酸素タンクの爆発事故が発生する。
- 4月16日 – ウィーンで、米ソがSALT(戦略兵器制限条約)本会議開始。
- 4月24日 – 中華人民共和国が初の人工衛星東方紅1号の打ち上げに成功。
- 4月30日 – 米軍と南ベトナム軍がカンボジアに侵攻。
- 5月15日 – フランスが南太平洋で核実験。
- 6月26日 – チェコスロバキア共産党のドプチェク前第一書記など改革派幹部を除名(プラハの春事実上終焉)。
- 7月21日 – アラブ連合のアスワンハイダム完成。
- 8月8日 – アラブ連合とイスラエル、スエズ地域で停戦。
- 9月6日 – パレスチナゲリラがヨーロッパで旅客機を4機ハイジャック。
- 9月17日 – ヨルダン政府軍がアンマンのゲリラを攻撃、いわゆる黒い九月事件。
- 9月17日 – ソニー、ニューヨーク証券取引所に上場。
- 9月22日 – 米上院で大気汚染防止法案(マスキー法)が可決される。
- 9月25日 – ヨルダン国王フセインとPLO議長アラファト、停戦合意。
- 9月28日 – アラブ連合のナセル急死、後任にサダト。
- 10月7日 – ニクソンがインドシナ和平提案、北ベトナムも南ベトナムも拒否。
- 10月8日 – アレクサンドル・ソルジェニーツィンのノーベル文学賞受賞が発表される。
- 10月9日 – カンボジアがクメール共和国へ移行を宣言。
- 10月14日 – 中国、ソ連、米国、同日に核実験。
- 10月29日 – 米ソが宇宙協力協定に調印。
- 11月6日 – イタリア、中国と国交樹立。
- 11月13日 – シリアでクーデター、アサド国防相が実権掌握。
- 12月7日 – 西ドイツとポーランド、国交正常化条約に調印。
- 12月14日 – ポーランドのグダニスクで暴動。
日本
- 3月14日 – 日本万国博覧会(大阪万博)開幕( – 9月13日まで)。
- 3月31日 – 日本航空機よど号ハイジャック事件発生。
- 6月 – 日米安全保障条約自動延長に抗議して全国規模の安保反対統一行動実施
- 6月23日 – 日米安全保障条約自動延長。
- 7月18日 – 東京で日本初の光化学スモッグ被害発生
- 8月2日 – 銀座、新宿、池袋、浅草の4か所で歩行者天国が始まる
- 11月25日 – 三島由紀夫自決
- 12月20日 – 沖縄コザ市で暴動発生。沖縄で米兵の起こした交通事故の無罪判決に抗議。