1969年のビルボード100で1位になった曲のリストを眺めながら、その年の世界の出来事を振り返ります。
8月15日から17日まで3日間ウッドストックフェスティバルが開催されます。50万人の観客を動員して大きな話題となりました。まさに戦後ベビーブーマー世代の祭典でした。世界的な若者による反体制運動の影響を受けて日本では東大紛争が勃発します。パリの5月、ウッドストックとミニマルミュージック。
ニクソンが米国大統領に就任します。日本の佐藤首相はニクソンとの間で沖縄返還の合意を取り付けます。ニクソンはベトナム戦争の終結へ向けて舵を切りますが、事態は前に進まず出口は見えません。
この年はテクノロジーに関する話題が多く、アポロ11号の月面着陸、現在のインターネットの元になったARPA-NETの稼働、インテルの設立と続きます。ARPAは冷戦下における国防技術としての通信網という位置づけでした。ARPAを立ち上げたのは米国防省だったという事実は忘れられているかもしれません。月面着陸も冷戦下の軍事技術競争というのがその実態でした。同じ頃、IBMはハードウェア/ソフトウェアを分離して販売するという方針をとり、これは「ソフトウェア革命」と呼ばれました。ソフトウェアの時代が来る、と言われたのですが、それが実現するのはかなり後のマイクロソフトの登場を待たなくてはなりません。
ビートルズは最終章を迎えており、アルバムチャートではキングクリムゾンの『クリムゾンキングの宮殿』がビートルズの『アビーロード』を抑えて一位になったことが大きな話題になりました。
フーコーの『血の考古学』、ドゥルーズの『差異と反復』などポストモダンの思想が台頭してきたこともあり、左翼イデオロギーにはゆっくりと大きな変化の兆しが見られます。先進諸国の政治・経済・文化はいい意味でも悪い意味でも成熟期を迎えるとともに、次の変動の時期に来ていました。
1969年のビルボードHOT100による1位のシングル一覧
年間チャートの1位はアーチーズの「シュガー・シュガー」
曲名 | アーティスト名 | 日付 |
悲しいうわさ I Heard It Through the Grapevine | マーヴィン・ゲイ | 1/4 1/11 1/18 1/25 |
クリムズンとクローバー Crimson and Clover | トミー・ジェイムス&ザ・ションデルズ | 2/1 2/8 |
エヴリデイ・ピープル Everyday People | スライ&ザ・ファミリー・ストーン | 2/15 2/22 3/1 3/8 |
ディジー Dizzy | トミー・ロウ | 3/15 3/22 3/29 4/5 |
輝く星座 Aquarius/Let the Sunshine In | フィフス・ディメンション | 4/12 4/19 4/26 5/3 5/10 5/17 |
ゲット・バック | ビートルズ | 5/24 5/31 6/7 6/14 6/21 |
ロミオとジュリエットのテーマ Love Theme from Romeo and Juliet | ヘンリー・マンシーニ | 6/28 7/5 |
西暦2525年 In the Year 2525 | ゼーガーとエバンズ | 7/12 7/19 7/26 8/2 8/9 8/16 |
ホンキー・トンク・ウィメン Honky Tonk Women | ローリング・ストーンズ | 8/23 8/30 9/6 9/13 |
シュガー・シュガー Sugar, Sugar | アーチーズ | 9/20 9/27 10/4 10/11 |
悲しいへだたり I Can’t Get Next to You | テンプテーションズ | 10/18 10/25 |
サスピシャス・マインド Suspicious Minds | エルヴィス・プレスリー | 11/1 |
ウェディング・ベル・ブルース Wedding Bell Blues | フィフス・ディメンション | 11/8 11/15 11/22 |
サムシング / カム・トゥゲザー Something / Come Together ※2曲A面でリリースされた | ビートルズ | 11/29 |
ナナ・ヘイ・ヘイ・キス・ヒム・グッバイ Na Na Hey Hey Kiss Him Goodbye | スティーム | 12/6 12/13 |
悲しみのジェット・プレーン Leaving on a Jet Plane | ピーター・ポール&マリー | 12/20 |
またいつの日にか Someday We’ll Be Together | ダイアナ・ロス&ザ・スプリームス | 12/27 |
ロック系のアルバムリリース
これを見ると新しいロックの時代が始まっていることがはっきりわかります。ツェッペリンのデビューが象徴的です。ツェッペリンの成功が新しい時代の幕を開けたといっても過言ではないと思います。当時日本では『ニューロック』と呼ばれていた新しいロック=ウッドストック以降のロックが市民権を得たることになります。
- ビートルズ 『アビイ・ロード』『イエロー・サブマリン』
- ローリング・ストーンズ 『レット・イット・ブリード』
- ニール・ヤング 『ニール・ヤング』
- クロスビー、スティルス&ナッシュ 『クロスビー、スティルス&ナッシュ』[3]
- アレサ・フランクリン 『ソウル’69』
- フランク・ザッパ 『ホット・ラッツ』
- ジャニス・ジョプリン 『コズミック・ブルースを歌う』
- フェアポート・コンヴェンション 『リージ・アンド・リーフ』
- ジェファーソン・エアプレイン 『ヴォランティアーズ』
- ボブ・ディラン 『ナッシュヴィル・スカイライン』
- スライ&ザ・ファミリー・ストーン 『スタンド!』
- ヴェルヴェット・アンダーグラウンド 『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド』
- クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル 『バイユー・カントリー』
- グレイトフル・デッド 『ライヴ/デッド』
- キング・クリムゾン 『クリムゾン・キングの宮殿』
- マイク・ブルームフィールドとアル・クーパー 『フィルモアの奇蹟』
- レッド・ツェッペリン 『レッド・ツェッペリン I』『レッド・ツェッペリン II』
- ザ・フー 『トミー』
- フリートウッド・マック 『イングリッシュ・ローズ』
- アイアン・バタフライ 『ボール』
- モビー・グレイプ 『モビー・グレイプ69』
- ドノヴァン 『バラバジャガ』
- キャプテン・ビーフハート・アンド・ヒズ・マジック・バンド 『トラウト・マスク・レプリカ』
- コロシアム 『コロシアム・ファースト・アルバム』
- トミー・ジェームズ&ザ・ションデルズ『クリムゾン&クローバー』
- ドクター・ジョン 『バビロン』
- プロコル・ハルム 『ソルティ・ドッグ』
- ニーナ・シモン 『トゥ・ラヴ・サムバディ』
- ザ・バンド 『ザ・バンド』
- マイルス・デイヴィス 『イン・ア・サイレント・ウェイ』
- ジョニ・ミッチェル 『青春の光と影』
- シャッグス 『フィロソフィー・オブ・ザ・ワールド』
1969年の世界の出来事
- 1月16日 – チェコスロバキアの大学生ヤン・パラフがプラハのヴァーツラフ広場でワルシャワ条約機構軍の侵攻によるプラハの春圧殺に抗議して焼身自殺を図る。パラフは3日後に死去。
- 1月16日 – ソ連の有人宇宙船・ソユーズ4号とソユーズ5号が史上初の有人宇宙ドッキングに成功。
- 1月20日 – リチャード・ニクソンが第37代アメリカ合衆国大統領に就任。
- 3月2日 – 中ソ国境紛争(珍宝島事件/ダマンスキー島事件)勃発。
- 3月30日 – フランシーヌ・ルコントがパリで政治活動中に焼身自殺。後に、日本において彼女を題材にした歌「フランシーヌの場合」(新谷のり子)がヒットする。
- 4月28日 – シャルル・ド・ゴールがフランス大統領を辞任。
- 6月8日 – 南ベトナム解放民族戦線、南ベトナム共和国臨時革命政府を樹立。
- 7月8日 – IBMによって開発されたトランザクション処理システム、CICSが発売。
- 7月15日 – ジョルジュ・ポンピドゥがフランス大統領に就任。
- 7月20日 – アポロ11号が人類初の有人月面着陸を果たす。
- 夏季 – ガーナを起点として急性出血性結膜炎(アポロ病)が世界的に大流行する。
- 8月14日 – 北アイルランド問題: イギリス軍が北アイルランドの宗教紛争に介入 。
- 8月15日〜17日 – ウッドストック・フェスティバル開催。
- 9月23日 – 中国が第1回地下核実験を行う。
1969年の日本の出来事
- 5月26日 – 日本の東名高速道路が全区間開通(全線開通は1971年12月21日)。
- 6月10日 – 日本のGNP(国民総生産)が西ドイツを抜いて世界第2位となったことを同国の経済企画庁が発表。
- 6月12日 – 日本初の原子力船「むつ」が進水式。
- 8月9日 – 日本漁船が歯舞諸島沖でソ連警備艇と衝突し沈没。11人死亡。
- 9月6日 – 新東京国際空港建設開始。
- 10月21日 -10.21国際反戦デー闘争。
- 10月29日 – 日本で人工甘味料チクロの使用が禁止される。
- 11月21日 – 佐藤栄作首相がニクソン大統領と会談し、日米共同声明を発表。3年後の沖縄返還合意を取り付ける。
- 12月1日 – 住友銀行(現・三井住友銀行)が日本初の現金自動支払機(CD)を東京・新宿支店と大阪・梅田支店に設置。
- 12月27日 – 日本で第32回衆議院議員総選挙投票。自由民主党が288議席を獲得し圧勝。