1982年ビルボードとその時代

1982年の世界と音楽シーン。国連軍縮会議、反核100万人、フォークランド紛争、ニューロマンティック、デュラン・デュラン、シンセ・ポップ、中小企業VAN、ワープロ「オアシス」。

《連載目次》

この年、フォークランド紛争が勃発します。1982年3月19日から6月14日までの間にフォークランド諸島の領有権を巡ってイギリスとアルゼンチンの間で行われた戦争です。最終的にはイギリスが勝利しました。戦争は、アルゼンチン海軍がイギリス領サウスジョージア島に海兵隊員を上陸させたことから始まりました。フォークランド紛争は第二次世界大戦以降では初めて大規模な海空戦を伴った戦争でした。

6月から7月の間にニューヨーク国連本部で第2回国連軍縮会議が開催され、ここで被爆者が初めて演説を行いました。これを受け広島市長が都市の連帯を呼び掛け、会議期間中に100 万人が集まって反核を求めたデモ行進を行いました。

この年の10月、公衆電気通信法の一部改正により、いわゆるデータ通信回線利用の自由化が実施され、いわゆる中小企業VANが制度化されました。

日本ではワープロの「オアシス」が100万円を切る価格で発売され、高見山を起用したCMが人気となったことで「ワープロ」という言葉が広く使われるようになりました。

1982年のミュージックシーン ~ ニューロマンティック

ニューロマンティックは70年代にデヴィッド・ボウイ、マーク・ボランやロキシーミュージックが牽引したグラムロックの流れで、70年代末のロンドンでクラブシーンから生まれたムーブメントです。しばしばエキセントリックで中性的なファッションを特徴として語られます。

ニューロマンティックの台頭について、70年代末の英国におけるパンクへの反動が指摘されます。パンクそのものへの共感というのは当時においても局地的・部分的で、むしろ新たな表現や刺激のために新しいサウンドを求めた結果、さらなるニューウェーブ(パンクの「次」)に向かっていた、と取るのが自然かもしれません。シンプルで粗野なギターポップから、より洗練されてエレガントなシンセ・ポップへの流れというのもある程度納得できます。

ニューロマンティックは、80年代に入ってからのMTVの流行によってアメリカでも大きく取り上げられるようになります。スタイリッシュなシンセポップとエキセントリックなファッションはPV映えして視聴者に強くアピールし、やがてMTVの主役の座を占めることになりました。代表的なアーティストとして、デュラン・デュラン、ヴィサージ、アダム&ジ・アンツ、スパンダー・バレエ、ヒューマン・リーグ、ジャパン、カジャ・グーグー、トンプソン・ツインズ等々があげられます。

MTVで人気を博す一方で、「全くの商業主義」として、批評家の中では完全に無視する動きもありました。ロック~パンクの流れが常に内包していたメッセージ性(場合によっては政治性)が「皆無」で、その代わりにファッション性ばかりが際立っていたニューロマンティックが批判されるのも、これまた容易に理解できます。

個人的な意見として述べれば、この時代のニューロマンティックを全て一括りにして批判するのはさすがに乱暴で、全くの商業主義で音楽的にほぼ無内容なものから、それなりの音楽性・作品性を備えたものまで、非常に多彩で幅広い展開があったと思っています。

1982年のビルボードHOT100による1位のシングル一覧

アーティスト日付
PhysicalOlivia Newton-John1/2
1/9
1/16
1/23
I Can’t Go For That (No Can Do)Daryl Hall John Oates1/30
CenterfoldThe J. Geils Band2/6
2/13
2/20
2/27
3/6
3/13
I Love Rock ‘N RollJoan Jett & The Blackhearts3/20
3/27
4/3
4/10
4/17
4/24
5/1
Chariots Of Fire – TitlesVangelis5/8
Ebony And IvoryPaul McCartney And Stevie Wonder5/15
5/22
5/29
6/5
6/12
6/19
6/26
Don’t You Want MeThe Human League7/3
7/10
7/17
Eye Of The TigerSurvivor7/24
7/31
8/7
8/14
8/21
8/28
AbracadabraThe Steve Miller Band9/4
Hard To Say I’m SorryChicago9/11
9/18
AbracadabraThe Steve Miller Band9/25
Jack & DianeJohn Cougar10/2
10/9
10/16
10/23
Who Can It Be Now?Men At Work10/30
Up Where We BelongJoe Cocker And Jennifer Warnes11/6
11/13
11/20
TrulyLionel Richie11/27
12/4
MickeyToni Basil12/11
ManeaterDaryl Hall John Oates12/18
12/25
https://www.billboard.com/charts/hot-100/

1982年のビルボード200による1位のアルバム一覧

タイトルアーティスト日付
For Those About To Rock (We Salute You)AC/DC1/2
1/9
4Foreigner1/16
1/23
1/30
Freeze-frameThe J. Geils Band2/6
2/13
2/20
2/27
Beauty And The BeatGo-Go’s3/6
3/13
3/20
3/27
4/3
4/10
Chariots Of Fire (Soundtrack)Vangelis4/17
4/24
5/1
5/8
AsiaAsia5/15
5/22
Tug Of WarPaul McCartney5/29
6/5
6/12
AsiaAsia6/19
6/26
7/3
7/10
7/17
7/24
7/31
MirageFleetwood Mac8/7
8/14
8/21
8/28
9/4
American FoolJohn Cougar9/11
9/18
9/25
10/2
10/9
10/16
10/23
10/30
11/6
Business As UsualMen At Work11/13
11/20
11/27
12/4
12/11
12/18
12/25
https://www.billboard.com/charts/billboard-200/

1982年にリリースされたアルバム

  • ヴァン・モリソン 『ビューティフル・ヴィジョン』
  • ブルース・スプリングスティーン 『ネブラスカ』
  • デペッシュ・モード 『ア・ブロークン・フレイム』
  • クイーン『ホット・スペース』
  • マーヴィン・ゲイ 『ミッドナイト・ラヴ』
  • ウィリー・ネルソン 『オールウェイズ・オン・マイ・マインド』
  • デニース・ウィリアムズ 『ニーシー』
  • ドナルド・フェイゲン 『ナイトフライ』
  • ルー・リード 『ブルー・マスク』
  • クロスビー・スティルス&ナッシュ『デイライト・アゲイン』
  • トム・ペティ 『ロング・アフター・ダーク』

1982年のアルバムランク(オリコン)

  • 1位 中島みゆき:『寒水魚』
  • 2位 山下達郎:『FOR YOU』
  • 3位 サザンオールスターズ:『NUDE MAN』
  • 4位 松山千春:『起承転結II』
  • 5位 オフコース:『over』
  • 6位 松田聖子:『Pineapple』
  • 7位 中村雅俊:『メモリアル』
  • 8位 オフコース:『I LOVE YOU』
  • 9位 松任谷由実:『PEARL PIERCE』
  • 10位 ナイアガラ・トライアングル:『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』
  • 11位 来生たかお:『夢の途中』
  • 12位 矢沢永吉:『P.M.9』
  • 13位 オフコース:『NEXT SOUND TRACK』
  • 14位 サウンドトラック:『セーラー服と機関銃』
  • 15位 サイモン&ガーファンクル:『セントラルパーク・コンサート』
  • 16位 近藤真彦:『ギンギラギンにさりげなく』
  • 17位 バーティ・ヒギンズ:『カサブランカ』
  • 18位 松山千春:『大いなる愛よ夢よ』
  • 19位 オリビア・ニュートン=ジョン:『虹色の扉』
  • 20位 松田聖子:『Seiko・index』
  • 21位 山下達郎:『GREATEST HITS! OF TATSURO YAMASHITA』
  • 22位 松任谷由実:『昨晩お会いしましょう』
  • 23位 中森明菜:『プロローグ〈序幕〉』
  • 24位 フリオ・イグレシアス:『イザベラの瞳』
  • 25位 山下久美子:『抱きしめてオンリィ・ユー』
  • 26位 大滝詠一:『A LONG VACATION』
  • 27位 エア・サプライ:『ナウ・アンド・フォーエバー』
  • 28位 Sugar:『シュガー・ドリーム』
  • 29位 アース,ウインド&ファイアー:『天空の女神』
  • 30位 近藤真彦:『BANZAI』
  • 31位 中島みゆき:『マイ・ベスト20』
  • 32位 TOTO:『聖なる剣』
  • 33位 オフコース:『SELECTION 1978-81』
  • 34位 八神純子:『夢みる頃を過ぎても』
  • 35位 来生たかお:『ベスト・コレクション』
  • 36位 一風堂:『Lunatic Menu』
  • 37位 ポール・マッカートニー:『タッグ・オブ・ウォー』
  • 38位 佐野元春:『SOMEDAY』
  • 39位 中森明菜:『バリエーション〈変奏曲〉』
  • 40位 サウンドトラック:『グッドラックLOVE』
  • 41位 松田聖子:『全曲集』
  • 42位 岩崎宏美:『夕暮れから…ひとり』
  • 43位 田原俊彦:『ベスト』
  • 44位 薬師丸ひろ子:『青春のメモワール』
  • 45位 ザ・タイガース:『1982』
  • 46位 イモ欽トリオ:『ポテトボーイズNo.1』
  • 47位 小泉今日子:『マイ・ファンタジー』
  • 48位 ビリー・ジョエル:『ナイロン・カーテン』
  • 49位 中島みゆき:『A面コレクション』
  • 50位 谷村新司・さだまさし:『スペシャル・ライヴ』

ミュージック・ライフ人気投票

  1. クイーン
  2. レインボー
  3. マイケル・シェンカー・グループ
  4. ダリル・ホール&ジョン・オーツ
  5. ホワイト・スネーク

ぴあテン音楽

  1. 『寒水魚』中島みゆき
  2. 『Nude Man』サザンオールスターズ
  3. 『I Love You』オフコース
  4. 『ナイロン・カーテン』ビリー・ジョエル
  5. 『パール・ピアス』松任谷由実

1982年世界の出来事

  • 2月8日 – ホテルニュージャパン火災。
  • 3月29日 – メキシコのエルチチョン山が大噴火。火砕流が発生した他、エアロゾルで世界の平均気温が0.3℃程低下。死者2000人以上。
  • 4月2日 – フォークランド紛争勃発。
  • 5月8日 – F1・ベルギーGPでジル・ヴィルヌーヴが事故死。
  • 5月28日 – ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世がイギリスを訪問。カトリック教会とイングランド国教会が450年ぶりに和解。
  • 6月6日 – イスラエルがレバノン侵攻開始。
  • 6月8日 – ロッキード事件全日空ルートの裁判で橋本登美三郎、佐藤孝行(いずれも政治家)の2人に実刑判決。
  • 6月14日 – フォークランド紛争終結。
  • 6月22日 – IBM社の技術に関する機密情報を不法入手したとして、IBMメインフレームコンピュータの互換機メーカーである日立製作所と三菱電機の社員6人が逮捕される。
  • 7月14日 – アメリカに政治亡命したレフチェンコKGB少佐が米下院の秘密聴聞会で日本での工作活動を暴露。
  • 7月23日 – 国際捕鯨委員会で1986年からの商業捕鯨全面禁止案が採択。
  • 8月17日 – フィリップスが世界初のCDを製造。ABBAの項目参照。
  • 9月14日 – モナコ公国のグレース・ケリー大公妃が自動車事故死。
  • 10月1日 – ソニーが世界初のCDプレーヤー、「CDP-101」発売。CDソフト50タイトルも同時発売。
  • 11月10日 – ソ連のブレジネフ書記長死去。後任にユーリ・アンドロポフ第二書記が就任。

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