グレッチェン・パーラト&リオーネル・ルエケ『リーン・イン』

“Lean In” by Gretchen Parlato & Lionel Loueke


グレッチェン・パーラト&リオーネル・ルエケ / リーン・イン [CD]

泣けるほどいいアルバムを紹介します。個人的には2023年のベストアルバムの一つです。

グレッチェン・パーラトはアメリカのジャズシンガー。1976年生まれでカリフォルニア出身です。2001年にカリフォルニア大学で音楽民俗学を専攻した後、南カリフォルニア大学セロニアス・モンク・インスティチュートに参加してハービー・ハンコックやウェイン・ショーターに師事します。ここでギタリストのリオネル・ルエケと知り合い、彼と共にヴォーカル・ギターデュオとして活動するようになります。つまりこの二人、グレッチェン・パーラトとリオネル・ルエケは20年来のデュオなのです。

(因みに「セロニアス・モンク・インスティチュート」は現在「ハービー・ハンコック・インスティチュート」に名称を変更しています。)

2004年にセロニアス・モンク・コンペティションのジャズ・ヴォーカル部門で優勝。ここで得た賞金をつぎ込んで2005年にその名を冠したファーストアルバム『Gretchen Parlato』をセルフリリースします。その後2008年にはObliqSoundレーベルと契約して『In a Dream』をリリース。さらにロバート・グラスパーをプロデューサーとして迎えた『The Lost and Found』で評価を確立し、2013年のライブアルバム『Live in NYC』は57回グラミー賞にノミネートされました。

彼女のヴォーカルは、囁くようなシルキーヴォイスとパーカッシブなスキャットが魅力です。そのスキャットは「バンドのグルーブを豊かにする魔法」とまで言われています。またそのヴォーカルスキルは「現代のどんな複雑なジャズでも軽々と乗りこなす」と評価されています。

さて一方のギタリストであるリオネル・ルエケは、1973年に西アフリカのベニン共和国で生まれました。ジョージ・ベンソンの音楽との出会いをきっかけにジャズを志向し、高校卒業後、コートジボワールの国立芸術学院とパリのアメリカン・スクール・オブ・モダン・ミュージックで学んだ後、アメリカに移住し、奨学金を得てボストンのバークリー音楽院に入学しました。

2001年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のセロニアス・モンク・インスティテュート・オブ・ジャズのオーディションに合格し、その過程でハービー・ハンコックやウェイン・ショーターの目に留まることになります。そして先にも述べたように、ここでグレッチェン・パーラトと出会って意気投合します。2002年、テレンス・ブランチャードのバンドに参加して、2003年の『Bounce』、2005年の『Flow』をレコーディング。その後も、チャーリー・ヘイデンの『Land of the Sun』、ハービー・ハンコックの『Possibilities』などで注目を集めます。

ソロ・アーティストとしては、2005年に『In a Trance』でデビュー。ソロとしての一連の作品を残す一方で、アンジェリーク・キジョー、ノラ・ジョーンズ、エスペランサ・スポルディングなどのアルバムに参加してスタジオミュージシャンとしても活躍しています。

2007年になると、ハンコックの『River』に参加したことでルエケの知名度は一気に上がります。このアルバムは、第50回グラミー賞で年間最優秀アルバム賞と最優秀コンテンポラリー・ジャズ・アルバム賞を受賞しました。


Herbie Hancock ハービーハンコック / River: The Joni Letters 【SHM-CD】

2008年にはブルーノートと契約し、2008年の『Karibu』、2010年の『Mwaliko』、ロバート・グラスパーがプロデュースした2012年の『Heritage』など一連のアルバムを発表していずれも高い評価を得ます。

ソロ活動とは別に、2006年には同じバークリーの卒業生であるベーシストのマッシモ・ビオルカーティ、ドラマーのフェレンツ・ネメスとトリオ「Gilfema」として活動。2016年には、ベーシストのデイヴ・ホランド、サックス奏者のクリス・ポッター、ドラマーのエリック・ハーランドとともにフュージョン・グループ「Aziza」に参加しました。こちらではソロ活動でのスタイルとはやや異なり、フュージョン・ジャズ・スタイルでの比較的オーソドックスな演奏が聴けますが、ソロパートになるとやはり「ルエケ」スタイルが全開になります。

アフリカのポップ音楽とブラジル音楽をルーツとしたリオネル・ルエケのスタイルは極めてユニークなものです。基本的にはフィンガーピッキングで「美しい和音を奏でるパーカッション」とでもいうべきスタイルなのです。しかしリーダー作である『Gaia』では打って変って、ディストーションがかかったロック的なサウンドでの演奏を聴かせてくれます。このサウンドは恐らくDigiTechのピッチシフトペダルとRATのディストーションペダルを使ったものですが、他ではあまり耳にしたことがないような極めてユニークかつ個性的なサウンドです。

さて、アルバム『リーン・イン』は、シンガー、グレッチェン・パーラトとギタリスト、リオネル・ルエケによる20年来のコラボの集大成ともいえます。二人のオリジナル曲の他に、クライマックスのカバー「I Miss You」やエリス・レジーナのカバー「Samba da Pergunta」、フー・ファイターズのカバー「ウォーキン・アフター・ユー」が収められています。

基本的には、パーラトのヴォーカルとルエケのギター、この二人によるパーカッションが中心ですが、その他にマーク・ジュリアナのドラム、バーニス・トラヴィスのベースが加わります。さらにはマーク・ジュリアナの愛息マーレー・ジュリアナがヴォイスで参加しています。

「しっとりと弾ける」と言ったら形容矛盾かもしれませんが、そう呼びたくなる揺蕩うサウンドとパーカッションのグルーブに包まれて、アフリカン・ビーツ、ブラジル音楽と現代ジャズが融合したサウンドは、ほとんど至福の時間を与えてくれます。

最後にグレッチェン・パーラトとリオネル・ルエケのルーツとアーティスト相互関係を「音楽ルーツグラフ」で紹介しておきます。このグラフは このリンク で見ることができます。動かして他のアーティストを追加するなどできますので、是非遊んでみてください。

https://app2.ongak-gak.com/demo_app/

music roots graph
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