First Rays of The New Rising Sun / Jimi Hendrix

1970年ジミ・ヘンドリックスは新しい2枚組のアルバムの構想を持っており、そのレコーディングを進めていた。このアルバムは本来最高傑作と呼ばれるはずだったが、ヘンドリックスがアルバムの完成をまたずして急死してしまったため、未完の遺作となってしまった。残された膨大な録音の中でヘンドリックスが最終ミックスるにOKを出していた曲はFreedom、Izbella、Dolly Daggerのたった3曲だけだったという。生前のヘンドリックスが最も信頼していたエンジニアのエディ・クレイマーが中心となって、クオリティの高いものを選りすぐってリリースすることとなった。

ヘンドリックス自身による2枚組の構想は、マネージメントサイドの判断で却下されて「Cry Of Love」として1枚のアルバムにまとめたものが「遺作」としてリリースされた。「Cry Of Love」はリリース当時も非常に評価が高く、全英で2位、全米も3位とヒットアルバムとなった。

「Cry Of Love」リリースの後に、残された録音から比較的クオリティの高いものを集めて「Raibow Bridge」、「War Heroes」として2枚のアルバムがリリースされていたのだが、ヘンドリックスの遺志に沿う形で2枚組アルバムとしてまとめたのがこの「First Rays of The New Rising Sun」になる。つまりこちらが本当の意味での遺作ということができる。結局「First Rays~」は、Cry Of Love,Rainbow Bridge、War Heroesの3つのアルバムに分散されていた曲をまとめたもの、ということになる。

このほど2024年5月にアナログ盤が完全生産限定盤として再リリースということになった。これはあくまで日本での企画となり、盤自体は輸入盤となる。先に述べたような経緯で最高傑作と言い切ることができないのだが、その音楽的なクオリティも作品性も「事実上の」最高傑作と呼んで差し支えないと思う。


Jimi Hendrix / First Rays Of The New Rising Sun (2枚組アナログレコード) 【LP】

ヘンドリックスとファンク・ロック

最初に「Cry Of Love」と「Raibow Bridge」を聴いた時、個人的にこれは70年代ファンクロックの先駆けとなる傑作だと感じたが、当時これらのアルバムを「ファンク・ロック」と捉える人はほとんどいなかったように記憶している。しかし近年のレビューを見ると、必ずといっていいほど「ファンク」ないし、「ファンク・ロック」というフレーズが使われるようになったことは大変喜ばしい。

例えばAllmusicにおけるこのアルバムのレビューでは次のように述べている

ここに収録されている曲の多くは、ヘンドリックスが初めて自分の曲をブラック・ミュージックのイディオムに特化させ、歌、演奏、サウンド全体にR&Bやファンクの要素を取り入れたことを示している。

https://www.allmusic.com/album/mw0000619298

ジミ・ヘンドリックスが後世に与えた影響の大きさと広さは計り知れないのだが、P-Funkを経てRed Hot Chili Peppersで結実する「ファンク・ロック」という側面こそがその最大のものだったと、これまた個人的にではあるが信じている。そしてこの幻の2枚組アルバムの次に来るはずだったのが、マイルス・デイヴィスとの共演・共作であったに違いないことも個人的に確信している。マイルス・デイヴィス側の資産管理が極めてシビアであったため今後も決して世に出ることはないだろうが、この二人(マイルスとジミ)がジャムを行った録音が残っている、と聞いた。あるいは「都市伝説」レベルの話なのかもしれないが、私は存在を信じる、もしくは信じたい。

エレクトリック・レディ・スタジオ

「First Rays~」に収められた曲の録音は一部の例外を除いて1970年にRecord Plantスタジオと完成直前のElectric Ladyスタジオで行われた。Electric Ladyスタジオは、ジミ・ヘンドリックスが1968年にニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジのクラブを買い取ってスタジオに改装したものだった。公式のオープンは1970年の8月26日だった。オープニングのパーティには、Steve Winwood, Eric Clapton, Ron Wood, そしてPatti Smithらが参加している。8月のオープンを前にして、二つあるスタジオのうちの一つは70年6月の時点でほぼ完成しており、ヘンドリックスはここで録音を行っていた(記録を見ると最初のレコーディングは6月15日になっている)。彼はツアーの合間を縫ってレコーディングを行っていたが、9月に急逝してしまうため、本人がスタジオを利用したのはわずかな時間に過ぎなかった。

前作のアルバム「Electric Lady Land」の録音において、ヘンドリックスはスタジオで莫大な時間を消費し、その費用もまた莫大な額に上ったという。これを見かねたエンジニアのエディ・クレイマーの提案でグリニッジ・ヴィレッジのクラブはスタジオに改装されることとなった。本来であればヘンドリックスは、自分のスタジオで納得のゆくまでアルバムづくりに没頭できるはずだった。それが僅か10週間しか与えられなかったというのは運命にしてもあまりに悲しい。

トラックリストと各曲のメモ

基本的にJimi Hedrix guitar, Mitch Mitchell drums, Billy Cox bassの3人で演奏されている。
それ以外のパーソネルは各曲に記載
Beginnings以外の全曲が、Jimi Hendrixの作詞/作曲でクレジットされている。

一部でオーバーダビングを極めて控え目に行っているが、基本はヘンドリックスが残した音をできる限り忠実に再現し、彼の遺志を最大限に尊重している。

1.Freedom

初出: The Cry of Love
Recorded: Electric Lady Studios, 1970-6-25,14,19; 8-14, 20
Mixed: Electric Lady Studios, 1970-8-24

Backing Vocals: The Ghetto Fighters
Percussion: Juma Sultan
Piano: Jimi Hendrix
Hendrixがピアノでコードを弾いている。

この曲はスティーブ・ルカサーのソロアルバムCandymanでVoポール・ロジャースでカバーされている。意外にも?原曲に忠実なカバーとなっている。

2.Izabella

初出: War Heroes
Recorded: Record Plant, 1970-1-17
Overdubs: Electric Lady Studios, 1970-6
Mixed: Electric Lady Studios, 1971-1-31
Backing Vocals: The Ghetto Fighters

Izabellaというのは彼が使ったギターの一本の愛称です。オリンピックホワイトのストラトでWoodstockの時に星条旗を弾いた「あの」ギターです。おそらく世界で一番有名なFender Stratocasterでしょう。現在はExperience Hendrix L.L.Cの管理下でシアトルに展示されているそうです。

3. Night Bird Flying

初出:The Cry of Love
Recorded: Electric Lady Studios, 1970-6-16, 7-19, and 8-22
Mixed: Electric Lady Studios, 1970-8-24

彼はこの曲のギターのベーシックトラックに32テイクを要したという。エレクトリック・レディ・スタジオのお披露目ではこの曲が使われた。

4. Angel

初出: The Cry of Love
Basic Track: Electric Lady Studios, 1970-7-23, and 8-20
Drum Overdubs: Electric Lady Studios, 1970-10-19
Mixed: Electric Lady Studios, 1970-11-12
ミッチェルがドラムをオーバーダブしている。一発OKだったらしい。
ジミ・ヘンドリックスの葬儀ではこの曲の歌詞がヘンドリックス家の友人によって朗読されたという逸話がある。ロッド・スチュワートがカバーしている。

5. Room Full of Mirrors

初出: Rainbow Bridge
Basic Track: Record Plant, 1969-11-17
Overdubs: Electric Lady Studios, 1970-6, 7? and 8-20
Mixed: Electric Lady Studios,1970-8-20
Drums: Buddy Miles

この曲がCry Of Loveから省かれたのは、ファンク、R&B臭が強すぎたためではないか、と推察できる。ドラムはバディ・マイルスだしBand Of Gypsys的な1曲になっている。

6. Dolly Dagger

初出: Rainbow Bridge
Recorded: Electric Lady Studios,1970-7-1, 15, 19, 20; 1970-8-14, 18, 20, 24
Mixed: Electric Lady Studios, 1970-8-24
Percussion: Juma Sultan
Backing Vocals: The Ghetto Fighters

この曲はシングル盤が予定されていた。この曲の歌詞はヘンドリックスのガールフレンド、デヴォン・ウィルソンについて書かれたものだ、という説がある。

7. Ezy Ryder

初出: The Cry of Love
Basic Track: Record Plant, 1969-12-18; 1970-1-20
Overdubs: Electric Lady Studios, 1970-6-15, 18, 8-2, 22
Mixed: Electric Lady Studios, 1970-8-22
Drums: Buddy Miles
Percussion: Billy Armstrong
Backing Vocals: Steve Winwood, Chris Wood

この曲も最初はBand Of Gypsysで録音されたものだ。フィルモアのライブで披露されている。そしてエレクトリック・レディ・スタジオのお披露目パーティでも、最新の録音が披露されている。

8. Drifting

初出:The Cry of Love
Basic Track: Electric Lady Studios, 1970-6-25, 29
Vibes Overdub: Electric Lady Studios, 1970-11-20
Mixed: Electric Lady Studios, 1970-12-2
Vibes: Buzzy Linhart
このヴァイブは、元の録音にはなくてオーバーダビングされたもので、エディ・クレイマーがミッチ・ミッチェルと相談の上でダビングすることを決定した。

ギターの音色が不自然に感じるかもしれないが、ベーシックトラックには、ラフなガイドトラックとしてライン録りしたギターしかなかったため、そのライン録りのギターの音をスタジオに戻してマーシャルアンプに入力した上でのスピーカーからの出力を録音し直している。

9. Beginnings

初出:War Heroes
Recorded: Electric Lady Studios, 1970-7-1, 8-22
Mixed: Electric Lady Studios, 1972-1-24
Percussion: Juma Sultan

唯一この曲だけがComposed by Mitch Mitchellとなっている。
Woodstockでは”Jam Back At The House”として収録されていた。

10. Stepping Stone

初出:War Heroes
Recorded: Record Plant, 1970-1-7, 17, 20
Overdubs: Electric Lady Studios, 1970-7-26
Mixed: Electric Lady Studios, 1970-12-3
Backing Vocals: The Ghetto Fighters

基本的にはBand Of Gypsysの曲だった。最初に披露されたのはフィルモアの69年大みそかのライブ。この録音のドラムはミッチ・ミッチェルが差し替えているが、聴いていると心なしかバディ・マイルス的に聞こえる。

11. My Friend

初出:The Cry of Love
Recorded: Sound Center, 1968-3-13
Mixed: Electric Lady Studios, 1970-12-2
Twelve String Guitar: Ken Pine
Harmonica: Paul Caruso
Drums: Jimmy Mayes
Piano: Stephen Stills

唯一1968年の録音。3月13日のジャムセッションを録音したもの。録音時期のせいもあるが、他の曲とは雰囲気が全く異なる。クラブでのリラックスしたジャム・セッションを思わせる。

12. Straight Ahead

初出:The Cry of Love
Recorded: Electric Lady Studios, 1970-6-17, 7-19, 8-20
Mixed: Electric Lady Studios, 1970-8-20

6-17のセッションで18回のテイクを録音して最終的なOKは翌日だった。録音の前にもリハーサルが行われていたので、結局、ビリー・コックスとミッチ・ミッチェルはこの曲を25回繰り返して演奏したことになる。ヘンドリックスのボーカルは7-19にダビングされた。歌詞もサウンドもポジティブな力が溢れるような曲だ。

13. Hey Baby(New Rising Sun)

初出:Rainbow Bridge
Recorded: Electric Lady Studios, 1970-7-1
Mixed: Electric Lady Studios, 1971-5-12
Percussion: Juma Sultan

「Cry Of Love」の収録候補曲だったが最終的に外され、「Raibow Bridge」のエンディングトラックとなった。All Along The Watchtowerを髣髴とする曲だが、ボーカルを録音する前に彼は逝ってしまったためインストルメンタル曲となっている。

14. Earth Blues

初出:Rainbow Bridge
Basic Trac: Record Plant, 1969-12-19
Overdubs: Record Plant, 1970-1-20
Electric Lady Studios, 1970-6-26
Mixed: Electric Lady Studios, 1971-5-12
Backing Vocals: Jimi Hendrix; Buddy Miles; Billy Cox; and The Ronettes
Percussion: Juma Sultan
元はバンド・オブ・ジプシーズの録音だったが、ドラムはミッチ・ミッチェルがオーバーダブして差し替えられた。バックコーラスにThe Ronettesが入っている!

15. Astro Man

初出:The Cry of Love
Recorded: Electric Lady Studios, 1970-6-25, 7-19,8-22
Mixed: Electric Lady Studios 1970-08-22

バンド・オブ・ジプシーズのセッションから生まれた曲だが、ビリー・コックスとミッチ・ミッチェルで改めて取り直しを行っている。ミックスがとても不思議でドラムは2セットを二人で叩いているように聞こえる。

16. In From the Storm

初出:The Cry of Love
Recorded: Electric Lady Studios, 1970-7-22, 8-20,24
Mixed: Electric Lady Studios, 1970-11-29
Backing Vocals: Jimi Hendrix; Billy Cox; Emmeretta Marks

ライブでもしばしば取り上げられて重要な曲だと思うのだが、資料が見つからない。見つけ次第加筆するつもりだ。

17. Belly Button Window

初出:The Cry of Love
Recorded: Electric Lady Studios, 1970-8-22
Mixed: Electric Lady Studios, 1970-8-24

アルバムの最後はジミ・ヘンドリックスの「カントリー・ブルース」。元々は自宅の部屋の4トラックでヘンドリックスが一人で録音したものが元になっている。

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