Cory Wong コリー・ウォン ~ ファンクギターマスター

コリー・ウォンが今年(2024年)6月に2度目の来日を果たした。ギターマガジン8月号では表紙を飾りその特集のタイトルが「カッティング超至上主義」ときた。カッティングマスター、ファンクギターマスター、新世代リズムギターマスターだのと賑やかな様子に個人的にはほくそ笑んでいる。この手のタイプのギタリストが注目されるのは正直嬉しい。ところでギターの「カッティング」というのは和製英語らしく、実際の英語圏では「ブラッシング」とか、低音ミュートのリフ弾きは「バブル」というらしい。


コリーウォンの経歴

さてコリー・ウォン、1985年ニューヨーク生まれのミネアポリス育ち、中国系ハーフのアメリカ人だそうだ。

彼は地元ミネソタにあるマクナリー・スミス音楽大学を出ている。在学中には主としてジャズを学んでおり、在学中にパット・マルティーノにも師事している。少し意外な気もするが、この頃にはパット・メセニーをフェイバリットとしていたようだ。この時代の録音も残っておりYouTubeで聴くことができるのだが、ファンクマスターの現在からはちょっと想像がつかないようなアバンギャルドなプレイをしている。彼が単なるリズムギターマスターに留まらないことを示唆しており、この人の音楽性の懐は意外といっては失礼だが、イメージよりはるかに深い。

彼がその名を知られるようになるきっかけは、地元アクアポリスでプリンスのバックバンドNPG(New Power Generation)のメンバーに認められたことだった。具体的にはNPGのドラマーだったMichael Bland マイケル・ブランドやベースのSonny T.が彼をピックアップして一緒に活動するようになった。そのうちに、NPGのホーンセクションだったHorn Headsにも認められここでも一緒にプレイするようになる。この頃のプレイもYouTubeに残っているが、現在の彼のスタイルはこの頃既に確立していることがわかる。

https://www.youtube.com/watch?v=ksQEg1QhRZo

コリー・ウォンとプリンス@ミネアポリス・ファンク・スクール

地元のライブでは、コリー・ウォンのギタープレイをたまたま聞いたプリンス本人から直々に「良いサウンドを持ってるじゃないか、君だけのサウンドだ」という「誉め言葉」をもらったというエピソードがあり、これが彼の自信の源となっている、ということをギターマガジンのインタビューで述べていた。プリンス直々の「誉め言葉」を頂戴すればギタリストの人生変えるよね。

地元でのライブを見たVulfpeckのメンバー達から誘われて、しばしば活動を共にするようにになる。2013年頃の話だ。この頃のウォンは並行してForeign Motionやその他自分のバンドでも活動をしていたが、2016年頃からはVulfpeckの準メンバーとして本格的な活動をすることになる。そしてコリー・ウォンが初参加したVulfpeckのアルバム「The Beautiful Game」がビルボードのR&Bチャートで10位に入りVulfpeckとCory Wongの知名度は一気に上がることとなる。そして、2019年にはマディソン・スクエア・ガーデンの単独公演でチケットをソールドアウトするまでになった。おそらくこの辺りで日本での知名度が上がってきたのだと思う。

プレイスタイルと音楽ルーツ

インタビューによると、コリー・ウォンのフェイバリット・ギタリストは、デヴィッド・ウィリアムス、ポール・ジャクソン・Jr、レイ・パーカー・Jr、ナイル・ロジャース、プリンスと並び、さらにジャミロクワイのロブ・ハリスが続く。

デヴィッド・ウィリアムスとポール・ジャクソン・Jrは、80年代のマイケル・ジャクソンのサウンドを支えたリズムギタープレイヤーで、「リードリズム」のコンセプトは彼らに触発されたことをウォン自身が明言している。ナイル・ロジャースとプリンスは説明がいらないと思う。少し意外だったのはウォンにはパット・メセニーにはまっていた時期があったとのこと。

YouTubeでコリー・ウォンのギターレッスンを見ていると、まず目につくのがかなり極端な「逆アングルピッキング」だ。インタビューによるとウォンはかなり意識的に逆アングルでピッキングしているとのこと。これは逆アングルのサウンドを狙った、というよりも、単に順アングルでのピッキングがやりにくいから、ということらしい。彼は実は左利きだそうで、つまりピッキングは利き手ではない右手でやっていることになる。順アングルのピッキングに違和感があって弾きにくい、というのはそうした事情が関係しているのかもしれない。

リードリズム

本人がインタビューで自分のスタイルを「リードリズム」という言葉で説明している。このリードリズムという言い回しは最近コリー・ウォンを語る時に常についてまわるようになり、代名詞ともなっているようだ。先にも述べたが、この「リードリズム」というコンセプトは、マイケル・ジャクソンのバッキングにおけるデヴィッド・ウィリアムスとポール・ジャクソン・Jrのプレイからインスパイアされたものだ。

彼のいう「リードリズム」とは、要するに、単調で地味になりがちなギターのリズムプレイの中にメロディラインを織り込んでサウンドに彩を加えるというもの。とてもシンプルでわかりやすいアイデアなのだが、実際の彼のプレイは一筋縄ではいかないこだわりの技術を凝縮したものになっている。想像するに、無名時代のジャズのキャリアやアコースティックギターでのプレイがベースになっている、と思われる。

The Fearless Flayers フィアレス・フライヤーズ

Vulfpeckのサイドプロジェクトとして2018年に結成されたユニット。Vulfpackの参加メンバーでもあるCory Wong 、ベースのJoe Dart (b)にMark Lettieri のギターとNate Smith のドラムを加えて構成されている。演奏で参加はしていないが、VulfpackのリーダーであるJack Strattonがプロデュースを行っており、このユニットもStrattonがリーダーシップをとっているとみられる。

サウンド的には、Vulfpackのミニマルファンクをさらミニマルに切り崩したところに、Lettieriのバリトンギターを加えた、という趣向になっている。究極の引き算によるマッチョなファンクサウンドを聴くことができる。

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