スキップ・ジェームス

1902年6月9日 – 1969年10月3日

彼のギター演奏は非常にダークなサウンドで知られています。最も有名な曲と言えば、エリック・クラプトンがクリーム時代にカバーした”I’m So Glad”でしょうか。

甲高い声と独自のダークな雰囲気は極めて個性的で、一度聴いたら耳にこびりついて決して忘れられなくなります。知名度が低いことがとてももったいないと思っているのですが、一部のコアなブルーズファンの中にはジェームスを毛嫌いする人もいる、と聞きました。理由はよくわからないのですが、憶測すればスキップ・ジェームスの強すぎる個性が鼻につくのか、あるいはその個性からくる「わかりやすさ」が嫌われるのかもしれません。

生涯

スキップ・ジェームス(本名ネヘミア・カーティス・ジェイムズ)は1902年6月9日、ミシシッピ州ベントニアで生まれました。

ジェイムスが育った家庭は比較的裕福であったらしく、10代の頃にピアノを習い高校にも通っています。これは当時のブルーズメンとしては異例のことです。ギターを始めたのは8歳の時で、教会ではオルガンも弾いていたようです。ピアノが弾けてオルガンも弾いていたということが、ギタースタイルに影響していることは多分間違いありません。

スキップ・ジェームズは地元ベントニアでストリートシンガーとして活動を続けました。1931年初頭、ジェームスはミシシッピ州ジャクソンのレコード店主でタレントのスカウトをやっていたH.C.スピアーのオーディションを受けます。このオーディションをきっかけとしてジェームスは、パラマウント・レコードでレコーディングを行いました。しかし生憎世界恐慌の時代であったため売れ行きは悪く、そのまま地元以外からは忘れられた存在となってしまいます。

レコーディングの後の時期、ジェームズの生活は放蕩を極めていたらしいのですが、やがて改心してか聖職者に転身します。その後しばらくの間、彼がどのように過ごしていたのかはよくわかっていません。

1964年になって、体を壊して入院していたジェームスを、ジョン・フェイヒーらブルーズ愛好家が再発見します。愛好家たちに引っ張り出されるようなかたちで、その後のジェームスはフォークやブルーズのフェスティバルに出演し、各地でコンサートを開き、さまざまなレコード会社から数枚のアルバムをリリースしました。これらの60年代録音は音質もよく聴きやすいものなのですが、体調がすぐれなかったせいもあり、良くも悪くも枯れた演奏と歌になっています。

68年にはクリームで活動していたエリック・クラプトンが、ジェイムスのI’m So Gladをカバーします。このカバーがジェイムスの知名度を大きく上げることになったのみならず、このカバーによる印税収入はジェイムスのキャリアにおける最大の収入だったといいます。

1969年10月3日にペンシルバニア州フィラデルフィアで67歳の若さで癌により亡くなります。

ロバート・ジョンソンへの影響

ロバート・ジョンソンはスキップ・ジェームスからの影響が少なくなかったと言われています。ジョンソンの32-20Bluesは、まんまジェームスの22-20Bluesへのオマージュとなっています。

また、ジェームスのDevil Got My Womanが、ジョンソンのHellhound on My TrailやCome On In My Kitchenに影響を与えている、との指摘もあります(*『Deep Blues』/ ロバート・パーマー著)。

この二人は、同時代(1930年代)にデルタを広く巡り歩いていたため出会っていた可能性はありますが、残念ながら記録はありません。

スキップ・ジェームズのギター奏法

スキップ・ジェイムスはオープンDマイナーチューニング(D-A-D-F-A-D)を使っていました。ジェイムスはこのチューニングをヘンリー・スタッキーというギタリストから学んだと言われていますが、このヘンリー・スタッキーがどういう人物だったのかほとんど記録がありません。

Dマイナーチューニングでは1,2,3、6弦をノーマルから2度(=1音)低くします。1,2,3弦を等しく1音下げるので、1,2,3弦を押さえるフォームは実はノーマルチューニングと同じです。ですが、低くチューニングすることでサウンドは相当にダークになります。さらに6弦の解放=低いDの音がペダルトーンのように鳴ることも、ダークで悪魔的な雰囲気を余計に引き立たせています。

ところで、ジェームスはオープンマイナーのチューニングを使っていたとはいえ、所謂「マイナーブルース」をやっていたわけではありません。「マイナーブルース」というと定義がとても曖昧ですが、ここではとりあえず「セントルイス・ブルース」のような、白人的で都会的なメランコリーを持ったものを「マイナーブルース」ということにします。スキップ・ジェームスのブルーズはそういう意味での「マイナーブルース」ではありません。

強いて言えば、ジェイムスのブルーズはデルタ的な泥臭さと都会的なメランコリーを併せ持ったようなところがあります。これは憶測ですが、彼のキャリアでピアノを習ったり教会でオルガンを弾いていたことと無関係ではないように思えるのです。「彼のブルーズはエモい」といういい方は敢えてしませんが、おそらくそれです。

スキップ・ジェームスのオープンDマイナーとか、ジミ・ヘンドリックスの半音下げなど変則チューニングを試してみるだけで、悪魔的な響きが聴こえてしまうのは私のつまらない思い込みからでしょうか。

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