ヘンドリックス・イン・ザ・ウエスト オリジナル版との違い

Hendrix In The Westは1971年にリリースされて以来ライブ盤のベストとして名高いアルバムです。ジミ・ヘンドリックスの熱烈なファンにはこのアルバム推しの人が少なくなく話題になりやすい1枚でもありました。2011年にリマスター盤が再リリースされているのですが、実は録音の権利関係の問題があってオリジナル盤と一部の内容が異なっています。

オリジナル盤(1971)とリマスター盤(2011)

まず”Little Wing”と”Voodoo Chile”が別録音です。オリジナル版ではこの2曲とも、San Diego Sports Arenaでの 1969-5-29 録音とクレジットされていましたが、これは間違いというより意図的な虚偽記載で、実際にはRoyal Albert Hallでの1969-2-24の録音です。何故こんなややこしいことをしたかと言えば、リリース元がRoyal Albert Hall録音の権利を有していなかったため、クレジットには”San Diego Sports Arena”と虚偽記載してリリースしてしまった、という結構ひどい話です。

2011年版の”Little Wing”は 1968-10-12 Winterlandの録音に差し替え。”Voodoo Chile”はクレジット通りの1969-5-29 San Diego Sports Arenaの録音に差し替えられています。

権利問題での差し替えは致し方ないのですが、少し惜しいのは、オリジナル盤に収められていたLittle WingのRoyal Albert Hall 1969-2-24 録音が非常にいいテイクなんです。イントロはスタジオ版に近いフレーバーのクリーントーンで始まり、後半のギターソロはライブならではという爆発的な盛り上がりを見せます。おそらくすべてのジミ・ヘンドリックス・ファンがイメージするLittle Wingに最も近い演奏だと思えるわけです。

さらに言えば、差し替えられたもう一曲ののVoodoo Chile(1969-5-29 San Diego Sports Arena)ですが、決して悪い演奏・録音ではありません。ですが、やはりこれもまた、オリジナルのVoodoo Chile(Royal Albert Hall 1969-2-24)があまりにも良すぎて、比べてしまうとやや劣って聴こえてしまいます。要するにRoyal Albert Hallでのライブは非常にクオリティが高かったわけです。それならRoyal Albert Hallのライブ盤を聴けばよいではないか、という話になりますが、このライブ盤がまたいろいろと問題があって、これについては後で述べます。

2011年リマスター盤では何故か曲順も入れ替えられています。

1971年盤

  1. Johnny B. Goode
  2. Lover Man
  3. Blue Suede Shoes
  4. Voodoo Chile
  5. The Queen
  6. Sgt.Pepper’s Lonely Hearts Club Band
  7. Little Wing
  8. Red House

2011年(リマスター)盤

  1. The Queen
  2. Sgt.Pepper’s Lonely Hearts Club Band
  3. Little Wing
  4. Red House
  5. Johnny B. Goode
  6. Lover Man
  7. Blue Suede Shoes
  8. Voodoo Chile

という具合で、LPだと調度A面とB面が入れ替わったことになります。確かにThe Queen(イギリス国家)から始まる曲順だと、リアルなコンサートのセットリストを思わせる並びになっていて自然と言えば自然です。しかし、オリジナル盤でのJonny B Goodに始まり、Red Houseでしめる、という構成に心酔しているオールドファン(筆者もその一人)の間では強い抵抗があるようです。

アルバムIn The Westについて

そもそもこの「In The West」というアルバム、ジミ・ヘンドリックス死後の1971年にリリースされました。ヘンドリックスが残したライブレコーディングの中でも、演奏内容、録音状態がベストなものを選りすぐってベスト・ライブ盤としてリリースされたのでした。実際ここに収められた演奏は非常にクオリティが高く文字通りの「ベスト・ライブ」と言って間違いありません。

私事になりますが、その昔、人から「ジミ・ヘンドリックスのお薦め盤」を聞かれたら、とにかく文句なしにこの「In The West」を推していました。それほどに粒ぞろいの名演が並んでおり、どれをとっても「これぞジミ・ヘンドリックス」と言える演奏です。ヘンドリックスのライブと言えばもちろんWoodstockが名高いのですが、あちらはやはり映像がないと今一つアピールしません。

収められた名演の中でも殊更に強調したいのが、ブルースナンバー「Red House」です。このテイクは”San Diego Sports Arena”の1969-5-24ですが、はっきり言って奇跡的な名演です。Red Houseはコンサートでは定番になっていて録音が多数残っていますが、これに勝る演奏を私は知りません。ジミ・ヘンドリックスの全てのブルースの中でも最高ですし、もしかしたら20世紀に演奏されたブルースの最高峰かもしれない、というのが大袈裟ではない個人的な感想です。

ロイヤル・アルバート・ホールでのライブについて

オリジナルの「In The West」ではロイヤル・アルバート・ホールでの”Little Wing”と”Voodoo Chile”ががこっそり忍び込んでいたことは先に述べました。このアルバート・ホールでのコンサートは非常にクオリティが高かったことも述べました。少なくともExperience時代のライブとしてはベストと言えるように思います。

ジミ・ヘンドリックスは1969年の2月18日と2月24日にアルバート・ホールでコンサートを行っています。音源として残っているのは2月24日の演奏です。この模様が録画されておりこれが映画として2015年に公開される予定でした。ところが権利関係の係争から公開は延期されてしまいました。

Royal Albert Hallの映像の権利を所有するジェリー・ゴールドスタインは、その録音についても権利を主張していますが、Experience Hendrix L.L.C(遺族による遺産管理組織)がそれを認めておらず係争になっています。この権利関係については今回調べてみましたが未だに係争中、ということです。この録音の方については”Live at Royal Albert Hall 69″として2005年にCDがリリースされたのですが、権利係争の関係で現在廃盤となっており現在では入手が少し難しくなっています。中古盤として入手できる可能性はあります。

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ジミ・ヘンドリックスが残したライブ映像・レコーディングの中でもとてもクオリティが高いロイヤル・アルバート・ホールのコンサートを正規のものとして鑑賞できないというのは、本当に残念なことです。できることなら権利関係を整理して、この名演を正規のものとして後世に残してほしい、と考えるのは私だけではないでしょう。

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